女性は男性の指輪がはめられた指に額を当てた。そして静かに念じる。

「鬼姫? 何をしたんだ?」

「ふふっ、まじないですわ。お姫様が落とした靴を探す童話をご存知? わたしはこの指輪で同じ事をしますのよ」

 シンデレラのガラスの靴をさしているのだろうか? あの指輪がぴったりはまる人こそ運命の相手と見極める呪い(まじない)を掛けたと微笑む。

 2人は来世の約束を交わし終えると身をまた寄せ合う。すると女性が幸せを噛み締め、こちらへ目配せしてきた。わたしが見えて居るらしい。
 それからわたしにだけ聞こえるよう唇を動かす。

【桜子、早くひとつになりましょう】

「!」

 ーー夢はここで途切れ、目を覚ました。明かりの消えた天井へ浅い呼吸を吹きかけ、瞬きを繰り返す。

「起きている?」

 お母さんがドアをノックし、返事を待たず開けた。

「大丈夫? すごくうなされていたみたいだけど?」

 起き抜けでボーッとしてしまう。額にお母さんの手を当てられ心地いい。

「……今、何時?」

「12時前よ、夕飯食べてすぐ部屋に上がってしまったけど体調が良くないの?」

「平気」

「そう? 無理はしないでね。お水を持ってくるわ。それと汗をかいてるから着替えなさい」

「待って!」

 部屋を出ていこうとするお母さんの袖を掴む。