約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される



 その夜、もやもやを消化しきれないまま眠ったわたしは夢を見た。

 きれいな着物をまとい、整えられた庭園を眺める女性はわたしと似ており、隣へ座る男性は四鬼さんに似ている。
 2人は楽しげに話をし、かなり親しい間柄なのだろう。目と目を見て会話していた。

「私は桜がいちばん好きですの。こうして貴方と見る桜がいちばん美しい」

「それは光栄だな。どれ、一枝取ってこよう」

「いいえ、それはいけません。手折るなんて可哀想。触れず観賞いたしましょう?」

 腰を上げようとする男性をすかさず止める。

「あぁ、姫は優しいな。その優しさが自分にだけ向けられたらいいのに」

 中腰の体勢で頬を撫でて、女性は擽ったそうに身を竦めつつも拒まない。

「あらあら、桜にまで妬いているのですか?」

 背後で甘ったるい会話を聞かされるわたしは完全な空気だ。わざとらしく拗ねた男性に女性がくすくす笑う。
 この鈴を鳴らしたみたいな笑い方、何処かでーーそう思いかけた時、名を呼ばれる。

「鬼姫は意地悪い。桜だけでなく、姫の瞳に映る全てに妬いているさ。だから少しの間、可愛い瞳を閉じてくれるかい?」

「承知しました」

 口付けの気配に女性は応じ、気持ちを重ねていく。男性に抱き寄せられ女性からは幸せの呼吸が漏れる。

 男性の側に居たい、ずっとずっと。何度生まれ変わろうと側にあり続けたい。
 わたしには女性の感情が手に取るよう読めた。

「私は貴方の約束された花嫁です。いつか離れてしまう日が来ても、どうか迎えに来て下さいませ。貴方に見付けて貰えるよう、この身に目印を付けます」

「目印とは?」

「桜ーーわたしは来世でも桜を名乗りましょう」