「そんな、まさか!」

 むきになって弁解しなくとも、相手は冗談と分かっている。
 す、と手を翳された。

「貧血は万病の元と言うよ。症状を放っておくと大変な事になるかもしれない。病院に行こう」

 彼の主張は善意かつ正論だ。

「僕には決められた花嫁が居る。だから下心がかって君を病院に連れて行こうとしているんじゃない」

 わたしが薬指にはめられた指輪を見つめ沈黙すると、にこやかに言葉を続けた。

「でも君はキレイだし、僕のタイプであるのは否定はしないかな。君はもっと美人になると思う」

「なっーー」

 頬がたちまち赤くなるのを感じた。そんな折り、黒い高級車が横付けられた。

 まず運転手が降りてきて後部座席のドアを恭しく開けると、白い制服を着た少女が現れる。

「見付けたわよ千秋。先に行ってしまうなんて酷いじゃないの!」

 この子は千秋と呼ばれる彼の【花嫁】なんだ。わたしは直感的に気付いた。