「あ、あの、お医者さんですか?」

 介抱に慣れているので尋ねてみた。

「違うよ。君より、ひと学年上の高校生、こんな真っ白な制服着てると医者に見えるか」

 これが制服なのか。あぁ、確か近くに【鬼月学園】がある。わたしの通う【葉月高校】と姉妹校で、鬼月学園には良家のご子息が多く籍を置く。いわゆるセレブ園。
 マンガみたいに派手で目立つ制服と聞いていたけれど、彼の育ちの良さが引き立ち、似合っている。

「脈は少し早くて、熱があるみたい。念の為、病院へ行こう」

「本当に大丈夫ですから。ありがとうございます」

 病院にかかっても治るはずないから。

「あ、いきなり起き上がったら駄目だよ」

 気遣い背中を支えてくれ、あの香りを強く強く感じた。貧血の症状は軽めであり我慢できる範囲だ。

「ーーなんだか良い匂いがします。これって香水ですか?」

「え?」

 話題を無理矢理変えたところ、戸惑わせてしまう。 

「香水なんてつけてないんだけど。何か匂う?」

 自らの肩口を嗅ぎ、傾げる。その様子がコミカルでわたしはつい笑ってしまった。

「嫌な香りじゃありません。なんというか懐かしくて、祖母の家みたいなーー」

「ぷっ、それって加齢臭?」

 わたしの率直な香りのイメージに、彼が今度は吹き出す。