ハンカチを受け取ると甘い香りがした。クレープより濃厚で、じんと痺れる香りを吸い込む。

「当主や柊は検査の結果を待ってから話をしろと言うが、僕は君が約束された花嫁であると疑わない」

 四鬼さんは言葉を発していても独り言みたいで、わたしに意味を伝える気がなさそう。

「執着? 最初に食べた対象? 約束された花嫁?」

 しかし、彼の話のキーワードを復唱した途端、冷えて鈍くなっていた思考回路が巡り始める。
 なんだか目の奥が熱い。ハンカチで患部を押さえればあの香りで包まれた。

「桜子ちゃん、僕の目を見て」

「四鬼さんの目、赤い?」

「桜子ちゃんの目も同じだよ」

 わたしの両肩を持ち、元々大きな瞳を更に開いて鏡の代わりにする。

「わたしも同じ?」

 あぁ、赤い目をしたわたしはーー鬼なのか。誰に教えられた訳じゃないが理解する、わたしは鬼なんだと。

 足元へクレープ落ち、ぐしゃりと潰れた。あんなに美味しく魅力的であったはずのものが一気に魅力を失い、別のものを欲する。

「血が飲みたいんでしょう?」

 ストレートに欲求を言い当てられた。

「な、なにを? 言ってるんですか? 血、なんて飲むはずないじゃないですか!」

「目をそらさないで。血を欲しがるのは悪くない。桜子ちゃんの場合、周りに理解者が居なくて辛かったでしょう? 人とは違うと苦しんだだろう?」