涼くんへの不満を四鬼さんにぶつけるなど筋違い。でも、溢れ出して口を塞げなくなる。

「昔は優しかったですよ? 桜子、桜子って呼んでくれ、わたしをお嫁にしてくれると約束もしました。けれど大きくなったら【おい】だの【お前】だのって名前すら呼ぶのが億劫がって、涼くんが何を考えてるか、さっぱり分かりません!」

 その場で立ち止まってマイク代わりにクレープを握りしめ、声を荒らげていた。

 怒りに続き、涙が込み上げてくる。

「涼くんがわたしに優しいとか、変な噂を立てられたくないんですよ! わたしがお荷物なのは誰に言われなくても知っています!」

 完全なる八つ当たり。流石の四鬼さんも突如切れ出した姿にあ然として、ポタポタと垂れるクリームで道路に水玉模様を作った。

「……あっ、ごめんなさい、何言ってるんだろう。わたし、涼くんの事になるすぐムキになってしまうんです。鬼月学園に付き合っている人が居ると嘘付いた時も頭に血が上ってて」

 高ぶる気持ちを吐き出し、頭の中が急激に冷めていく。

「はい、ハンカチ使って。それは【執着】で僕等の間ではよくある衝動だね。最初に食べた対象に抱くのも珍しくない、気にしないでいいよ。
断言する。桜子ちゃんは夏目君に恋なんかしていない」

「恋?」

「あぁ、君は恋なんかしていない」