「どうぞ召し上がれ」

 四鬼さんもクレープを受け取り、店先を移動する。その際も順番待ちしていた人等へ会釈し、格好良いや芸能人みたいという声が上がった。
 しかもそんな声に律儀に微笑み返すものだから、わたしは帽子を目深に被り直す。

「食べないの? こういうのは出来たてが美味しいよ?」

「食べ歩きを四鬼さんにさせる訳には……」

「あはは、そんなの気にしてくれたの? 全然平気だよ。ほら」

 言うと四鬼さんはクレープを頬張る。四鬼さんらしからぬ、わんぱくさだ。わたしにも食べるようウィンクしてくる。

「じゃあ、いただきます」

 クリームがずっしり詰まっているので、ひとくち目から味わえた。

「美味しい?」

「はい、美味しいです!」

 自然と笑顔になり、元気よく返事をしてしまう。

「うん、甘みを抑えたクリームは口当たりが良くて男でも食べやすい。そうそう、今日はカップルデーらしいね。僕達が恋人同士に見えたなら嬉しいよ」

 クリームより四鬼さんの発言の方がずっと甘い。耳触りの良い言葉に対し、どう返せばいいのか分からず俯くしかない。
 わたしの振る舞いは四鬼さんの隣に立てるものじゃないだろう。彼の品位を下げてしまってるんじゃないかと不安になる。

 駅前だけあって交通量は多く、人も多いが、四鬼さんはわたしが歩きやすいよう歩道側へエスコートした。この方向には公園があり、クレープを食べようと提案したのを覚えていてくれたのだ。