腕だけでなく全身が熱い。わたし相手に上手く立ち回れない先輩を茶化す声が遠くなり、ベンチへ横たわる。

「も、もしかして、体調不良とか?」

「……」

 声を出したくない。

「お、おい、大丈夫かよ、こいつ」

 先輩たちがわたしを囲み、様子を伺う。わたしもわたしで先輩たちの喉元を見る。

 今朝、涼くんの血を分けて貰ったばかりなのにもう血が恋しい。ただ、幾ら恋しいと思っても涼くん以外の血は飲みたくない。

 そして、バスが到着すると先輩等は携帯電話を投げ付けて乗車し、代わりに1名降りてきた。

「君、大丈夫かい?」

 下車直後、その人はわたしの前へしゃがむ。ふわり、甘い香りが漂う。

「はい……貧血だと思うので。暫くこうしていれば良くなります。どうぞ行ってください」

「いやいや、このまま置いてはいけないよ。ひとまず熱と脈を測ってみよう」

 病人との遭遇に慌てず、冷静に対処される。
 彼が纏う香りに鼻を鳴らす。血が恋しくて乾いているとどんな匂いも不快なのだが、不思議と懐かしい。以前何処かで嗅いだような……。
 それに額と手首にそっと添えられる指が心地良い。