「高橋さんの送り迎えするかは涼くーー【夏目くん】に聞いてみてくれない?」

「わかった!【涼君】に聞いてみる。あっ、今日からでいい?」

「夏目くんさえ良ければいいよ。わたしも用事があるから」

 わたしがあえて涼くんを名字で呼ぶと、高橋さんも呼び方を変更した。
 四鬼さんとクレープを食べた後、部活帰りの涼くんと帰るつもりでいたが、わたしは1人で帰ろう。お母さんに叱られてもいいや。

 わたしの承諾をとるなり、高橋さんは席を立ち、みんなの視線などお構いなしに「涼君、起きて、起きて」と猫なで声で背中を揺する。

 当の本人は熟睡していたらしく、目を擦りつつ事のいきさつを耳へ入れていた。そして状況を理解した途端、こちらを凄く睨みつけてきたので慌てて反らす。

 視線の逃避先に咲く桜は緑色になりかけ、春の終わりを告げている。
 行事予定によれば1年生は来月に宿泊訓練が行われるそう。

 わたしはいつもの如く欠席し、それを少しも残念に感じないのは、涼くんと高橋さんを見たくないからかもしれない。