柊先生は奇跡という輝かしい響きを口にしつつ、わたしから視線を外して廊下を見やり息を吐く。

「お話はまた後で。浅見さんは寝た振りをしていて下さい」

 わたしの了解を待たずカーテンを閉めてしまった。それから数十秒後、慌ただしい靴音が入室してくる。

「柊! 桜子ちゃんが来ていないかい?」

「千秋様、ここは保健室ですよ。お静かに願います」

「僕は桜子ちゃんは居ないか聞いているんだけど?」

「いらっしゃいましたが、眠ってます。大きな声を出して起こさないで下さい」

「眠っている? じゃあ顔だけでもーー」

 やってきたのは四鬼さんだ。ベッドを覗かれる気配に急いで横たわろうとした。と、先生がそれを防ぐ。

「寝顔の盗み見はマナー違反です」

「盗み見って、人聞きが悪いな。僕は桜子ちゃんを心配しているだけ。クラスの子に聞いたらHRが終わった途端、顔を真っ青にして教室を出ていったらしい」

 一応、わたしの不調に誰かしらは気付いてくれたみたいだ。そこは救われる。

「久し振りの学校の雰囲気に緊張してしまったみたいですね。なにしろ今日は千秋様の登校といい、学校内がいつもに増して騒がしいですし」

「あぁ、高橋という子も今日から来ているそうだね。柊は彼女をカウンセリングするのかな?」

「高橋さんが望めばしますよ、仕事の一環ですので。千秋様、お茶を淹れます、こちらへどうぞ」