約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

 四鬼さんは挑発するみたいに目を細め、ソファーのへりに手を広げて足を組み直した。

「それと妙な真似って? 抱きしめたりキスをしたり、あぁ、それ以上の事? 僕は桜子ちゃんさえ良ければ色々してみたいなぁ。夏目君は好きな子にそういう欲求は抱かない?」

「な、な、なにを言い出すんだ!四鬼千秋!」

「うん、夏目君はむっつりスケベなんだね」

 むっつりスケベの烙印を押すかのよう、膝を叩く四鬼さん。

「違う! 俺だってやる時はやる!」

 わなわなと震えて怒りをあらわにする涼くんは珍しく、しかも口走る。

 わたしは彼等の言葉に、ガッチャン、麦茶を入れたグラスを鳴らしてしまう。2人が一斉にこちらへ意識を寄越す。

「この間の嘘に今も付き合ってくれてるんですか? あの時は話を合わせてくれてありがとうございました。ただ涼くんには嘘とバレていますし、もう演技しなくて大丈夫ですよ」

「嘘? 演技? 君はそう思ってるの?」

「えっ、だってーー」

「最初は困っている君を助けたくて調子を合わせたが、それだけで父に病院の手配を頼んだりしない。桜子ちゃんのご両親へ婚約を認めて欲しいとは言わないよ。その言い方は傷つくなぁ」

 四鬼さんは立ち上がり、主張する。鏡を見なくとも自分の顔に苦笑いが浮かんでいるのが分かる。これは幾ら何でも突拍子もない展開だ。

「わたし達は出会って間もないです。婚約とか言われても信じられないと言うか、からかってるんですか?」

 だとしたら悲しい。四鬼さんがこんな心無い真似をする人とは思いたくなかった。
 わたしには好きとうそぶかれ、影で笑い者にされる悪戯を仕掛けられた経験が何度かある。