「雅希はすげえな!結局、仕入れ値、販売価格、全部あってた」
「そうやって礼子さんから教えてもらってるの。石を宝石にする品質の見極めかたから値のつけかたとか、それぞれの石の相場価格まで」
「でも“毎回ほぼ正確に言い当てる”って綿貫さん絶賛してたじゃん。“毎回”はマジすげー!“鳥肌立つ”のは俺も分かるわ」
「宝石はいつも同じようだけど、どこかに違う部分があるみたいな。その違いが新鮮で、新たに発見することが面白いんだよね」
「宝石の世界はやっぱ奥深いな。好きじゃなきゃ続かねえよ」
「そうだね。ねえ界人」
「ん?」
「界人はまだ、キスしたことないの」

私の問いかけに、界人は「はっ!」と言いながら飛びのく反応を示した。

「ないの」
「それは・・・場所にもよる!」
「ふーん」
「じゃあおまえはどうなんだよ!?」
「なんでムキになってんの」
「質問を質問で返すな」

いつの間にか界人の顔が、私の間近に迫っていた。
さすがにアゴグイまではしてないけど、これはまるで、さっきの礼子さんと界人の状況みたい・・・。

「どうなんだよ」言う界人の息が、私の顔をくすぐりそうだ。

「雅・・」「界人。近い」
「あっ!」と言った界人が先に一歩後退した。

「ごっ、ごめん」
「嫌じゃなかったから別にいい。あ、来た」
「・・・そ、っか」と界人が呟いたのとほぼ同時に、私たちを迎えに来てくれた車が停まった。