「忍?はさっきまで俺につきそってくれてたよ」
「“さっきまで”って」
「頼雅さんがおまえの様子を見に行って、こっち(ダイニング)に戻ってくるまで」
「ふーん」
「だからホントについさっきまでいてくれたんだけどさ、“雅希は今風呂入ってるぞ”って頼雅さんが言ったら“これでもう安心だな。俺出かけてくる”って言って・・」
「そう」と呟いた私は、白桃を食べた。

「美味しい。それにしてもよく白桃見つけたね。もう売ってるんだ」
「“旬”とか“出回る時期”とか、俺は全然分かんなかったから、売ってる店を探し回る前にまず、飛鳥兄ちゃんに“今缶詰じゃない白桃を売ってる店知ってる?”って聞いてみたんだ」
「カフェ経営してんだったらそういうことは知ってそうだな」
「はい。それ抜きにしても飛鳥兄ちゃんは食に関してかなり詳しい知識を持ってるから分かるかなと思って。そしたら“今すぐ白桃が欲しいんだったら、藤実屋(ふじみや)に行ってみたら?”と兄ちゃんに言われて・・」
「じゃあこの白桃は藤実屋の?」
「うん」
「どうりで美味しいと思った。さすが高級果物店の厳選された果物だよね。熟れ具合もちょうどよくて“今が食べごろ”って感じだし。ありがとう界人。高かったでしょ」
「いやいや!まぁぶっちゃけ、白桃って実は高級品だったのかって思ったくらい高かったけど・・でもほら、体か心、もしくは両方とも弱ってるときって、好きなものを食べたら元気出るだろ?特に果物!」
「なんだそれは。新しい果物説か?俺は初めて聞いたぞ」
「ええっ?じゃあ頼雅さんはどうやって自分を元気づけてるんですか?」
「おまえには教えねえよ」
「ぐ。やっぱり逃げられた」

すでに「父と息子」みたいに仲良く話している(私の)父さんと界人を交互に見ながら、白桃を食べた私は、また口元に微笑みを浮かべていた。