「雅希?」と聞く父さんに、私はうつむいたままボソボソとした声で「ごめん・・おとうさんのシャツ、濡れちゃった」と言った。

「いいよ別に。着替えりゃいいだけだし」
「もう仕事(トレーニング)に行く時間だよね。引き留めてごめん。私はもう大丈夫だから」
「そうか、分かった。じゃあ父さんは電話してくるから、おまえは部屋(ここ)にいろ」
「え・・・うん」
「すぐ戻るからな」
「え?」

父さんの答えは私の予想外だったので、私は思わず父さんのほうを「見た」。
あっ、と思ったときにはもう父さんの姿を見た「後」だったけど・・・父さんは薄く視えない。
私は心の底からホッとしたのと同時に、「誰か(人)が薄く視えるかもしれない」という恐怖心からほんの少し解放されて、本来の“落ち着き”を取り戻したような気さえした。