というわけで、迎えに来てくれる父さんを待つ間、私たちはトイレに行くことにした。
なんかこれって「デートっぽくないデート」っていうか「これこそ実用的」って言うべきなのか。
まあ・・「現実的」、だよね。

自分で行き着いた結論がちょっとおかしくて、つい顔をほころばせながら手を洗っていた、そのとき。
私と同じく「用」を終えてトイレから出てきた女の人が、私の隣の水栓で手を洗い始めた。

そのこと自体は別におかしくない。むしろごく普通で当たり前のことだ。
でも・・・隣にいるから自然と見えてしまう、鏡に映っているその女の人の顔が、私にはどうしても「薄く」視えてしまうのは、「ごく普通で当たり前」だと絶対に思えない・・・。

ていうか、これは「絶対におかしい現象」だよね。
だって鏡じゃないほうの「本体」も、(チラ見して確認した)私には薄く視えてるし。

本体が薄く視えるから、鏡にも同じように薄く視えて(映って)るってことだよね。
でもそれ自体がすでに普通じゃない。絶対におかしい現象だ。

自動的に止まった水を合図に、私の後から出てきた「おそらく私だけが薄く視える女の人」のほうが、私より先に行ってしまった。
・・・そうだ、ここで呆然と突っ立っててもしょうがない。
私はその女の人を追いかけるように、速足でトイレを後にした。