「・・・今朝、私は綿貫さんに用があったの。石の注文をしたかったから」
「そうなんか。俺はてっきりきよみ女史に会いに行ったとばかり思ってたぜ」
「きよみ女史はまだ来てなかった」「神谷雅希女史のおっしゃるとおりです」
「ふーん。でも珍しい、てか初めてじゃね?まーが自分から石を注文しに行ったのって」
「えっ?じゃあ雅希ちゃんはいつもどういう風に石を買ってるの?」
「礼子さんが仕入れた石を見に行って、その中から気に入った子がいたら買うって感じ。だからそうだね、確かに私から特定の石を注文したことはないかも」
「てかそーいうんは“ない”ってんだよ。“かも”はいらねえの」
「あ、そうだね。とにかく、最初は教室に行ったんだけど、綿貫さんはまだ来てなかったから、一旦自分の教室に戻ってたところで綿貫さんと鉢合わせして。だから2階の廊下で石の注文を済ませた。これが真実だよ」
「マジでウワサってさ、ほぼウソでできてるな。俺が聞いた内容で当たってたのは“綿貫さんと雅希”っていう人と、”2階の廊下“の部分だけだ」「俺も界人と同意見」
「要するに、人と場所の一部だけですね」
「それで真実味が増すから怖いんだよねぇ」
「しかもそれが広がるごとに真実からかけ離れていくってパターンがほとんどだから、恐ろしいんだよなぁ」
「“ありそうでない”話が“なさそうである”話にすり替わる瞬間、果たしてその話は嘘か、それとも(まこと)なのか」
「そういえば今朝の、綿貫さんに会う前だけど、銀兄ちゃんが言ってた。“人は自分が見たいと思うものだけ見える。そして人は、自分がこうだと思ったことが自分の現実になる”って」
「深い!」「でも的を得た真実だよな」「言えてら」
「神谷銀河氏のおっしゃるとおりです。それゆえ一つの物事に対する考えや捉え方は、人の数だけ存在するからこそ、誰かにとっての嘘は、他の誰かにとっては真になり得るのでしょう」
「すごいね、きよみ女史。銀兄ちゃんも似たようなこと言ってたよ。もしかしてきよみ女史って、銀兄ちゃんと似た者同士なのかな」
「どうでしょう。私はそこまで地獄的に頭脳明晰ではありませんが」