「このおうちってホンットに広いでしょう?なのにときどきワタシ一人で過ごさないといけなかったときもあったのよ。ムダに広い分、寂しさが増すだけで慣れることはなくて」
「だから“俺と一緒に旅行行こうぜ、俺が操縦するから絶対安心だ”って何度も誘ったじゃないか」
「飛行機恐怖症のワタシに飛行機に乗れって言うのは拷問を強いてるのと同じことよっ!ムリなモノはムリです!それにワタシも仕事――ってお料理教室だけど――を私の自宅やほかの場所でやらせていただいてたから、そんなに長く休めなかったのよね」
「ユキオくんは、今でも飛行機に乗るのが怖いですか」
「ええ、怖いわ。何がきっかけなのかはいまだに分からないんだけど、飛行機に乗って座って・・って考えるだけで、いまだにダメ。ワタシには海外旅行なんて無理な話なのよ」
「じゃあユキオくんは、海外旅行したことないの?」「一度もないわ」
「へえ」「じゃあ海外を含む旅行デートはできないですね」
「海外はできないけど、国内なら何度か旅行したわよ。ただし、車か列車で行ける範囲に限ってだけどね」
「あ、そっか。飛行機がダメでもその手があったな」
「ユキオくんは飛行機恐怖症を克服して飛行機に乗りたいって思ったことはありますか」
「結論から言うと、一度もないわよ。まず、そこまでしてまで飛行機に乗りたいと思ったことがないし、飛行機が怖くて乗れないことで、生活や仕事に支障をきたしたことがないし、私の命を脅かすような事態に陥ったこともないから。だけど絶対に飛行機に乗るしか方法がないみたいな、他に選択肢がないときは、飛行機に乗ることをがんばってみるかもしれないわね。まあ、そのときにならなきゃ分からないことだけど」
「そうですか」
「でもね、マサキちゃん。私は怖いことを無理やり克服して乗り越えようとしなくてもいいんじゃない?って思うわよ。人生は、苦手なことや辛いこと克服するためじゃなくて、好きなことや得意なことを究めたり、やってみたいと思うことにチャレンジしてみたり、がんばりたいと思うことをがんばるためにあるんじゃないかしら?」
「深い・・・!」「今、すっごくいいこと聞いた」「メモメモ!」
「悠希おじさんは昔、パイロットだったの?」
「国際線のな」「キャーッ、カッコイイ!」
「制服似合ってただろうなぁ」
「よるちゃんは見たことある?悠希おじさまの制服姿」
「あると思うけど、よく覚えてないなあ」
「ミヤコちゃんが小さいころには俺、もうパイロット止めてたから、たぶん覚えてないだろ」「だよね」と話しているところで、ユキオくんがやって来た。