航平が異動してきて数日、あの日以来会話はしていない。
同じ部署で毎日顔を合わせていても、管理職から直接回ってくるような仕事はないのだから当然だ。

「有梨は全然動揺しなかった?」
「動揺?」
「あんなふうに別れた元彼が急に帰ってきて、気持ちが動いたりしない?」

『会いたかったんだ』

航平の切なげな顔が浮かんで、密かに胸が疼く。
それを振り切るようにご飯を頬張り、くぐもった声で答える。

「動かないよ。私には陽太がいるんだから」
「本当にそうならいいんだけどね」

信用していないような言い方に不満の目を向けたら、渚は「ごめん」と繕うように笑った。