さよならの続き

入って来たのは只野さんじゃなかった。

「こ…課長…」
「…久しぶり」

ぎこちない笑み。不安げな声。
近くで見ると、頬から顎のラインは以前より少し瘦せてみえる。
3年という月日の経過が、確かにそこには感じられる。
心臓が早鐘を打ち始め、脳まで振動する感覚に陥った。
こちらの返事を待っている様子なのがわかって、平静を装って尋ねる。

「書庫に何かご用でしたか?」
「いや」

目を伏せた航平は少し沈黙して、切なげな瞳が私を見つめた。

「会いたかったんだ」

鼓動が跳ねた。
数瞬彼から目が離せなくなり、なんとかその瞳から逃れたとき、さっきまで早かった鼓動はじわじわと痛みを伴い始めていた。

「…どうして」
「わかってる。今さらこんなこと…だけど、またこんなふうに会えるとは思わなかったから」

私だって考えもしなかった。もう一度この人に会うことになるなんて。
うまく言葉が見つからず、ファイルを持っていた手に力がこもる。

「ファイル、1冊じゃないんだろ。重いと思って助っ人に来た。これ?」

彼はさっきとは違う明るい声で、棚の端に置いてあったほかの2冊を手に取った。

「あの、結構です。私また取りに来ますから」
「君だって自分の仕事があるだろ。何往復もしていたら面倒だ」
「でも」
「意地を張るな。俺だってせっかく来たのに何も持って帰らないのはおかしいだろ」

言うことが最もだから反論できない。
彼は2冊のファイルを軽々と持ってドアを開けた。
私は1冊を抱えたまま鍵をかけて、小走りで彼に追いついた。

「…すみません。持っていただいて」
「いや」

それ以上話すこともなく、私は航平の一歩後ろをついて歩く。
まるで現実味がない。私は今夢を見ているんだろうか。

執務室までの道のりが、来たときよりもずっと遠く感じた。