「…俺には彼女を幸せにしてやれません。彼女もそれを望んでない。彼女が好きなのは、西嶋さんです」

苦しげに目を伏せるその姿は、あまりにも痛々しい。
有梨と俺の仲を引き裂いたという自責の念に駆られ、自分が有梨を幸せにしてやることもできないという悲痛な思いを、その横顔が訴えている。

この人の苦しみを少しでも軽くしてやりたい。
有梨の悲しみを少しでも和らげてやりたい。
同情ではない。この人から伝わってくる思いに心を打たれたのだ。

「…西嶋さんが望むような幸せは彼女に与えられません。だけど、俺と彼女は友人です。気休め程度にしかならないかもしれませんが、支える努力はしたいと思います」

西嶋さんは少し安堵したように肩の力を抜き、表情を緩めた。

「ありがとう」

彼は立ち上がって俺に向き合った。

「俺は明日からもう仕事に来ないんだ。有梨に知られないように、昼間のうちに引っ越しも済ませる予定でいる。彼女に伝えてくれないか。どうか幸せに、と」
「…わかりました」

西嶋さんは深々と頭を下げて休憩室を出て行った。

敵うわけがない。
3年前も、今も、ただ有梨の幸せを願って身を引く彼の愛情の深さに。

有梨が俺の前で泣けるのなら、いくらでも泣かせてやろう。
俺にはもう、そのくらいのことしかできないのだから。