翌日、課長席に航平はいなかった。

「なんか急に体調崩したらしいよ」
「やめるのもそれが原因なんですよね。まだ若いのに」
「まあ有休消化ってことでちょうどいいんじゃない?」

周りの噂話でわかった。
航平はもう仕事にこないということ。
吉岡さんのほうを見たけど、泣きそうな顔をしてパソコンに向かう彼に話しかけることはできなかった。

定時ピッタリに仕事を終えて、駆け足で航平のアパートへ向かった。
駐車場に航平の車はない。
ドアノブには水道局の案内の袋がかけられている。
息を切らしながら、しばし呆然とした。

『愛してる。……愛してた』

やっぱりあれは過去形で間違いないんだ。
あれが最後の言葉になることを、彼は知っていたんだ。

嘘つき。
明日も会えるって言ったのに、また勝手にひとりでいなくなるなんて。

喪失感に支配され、感情らしい感情が枯れていく。
今の私はただの抜け殻だ。