『来月名古屋に転勤になるから別れよう』
――3年前。
桜並木の下、突風が吹いて白い花びらがいくつも目の前を舞った。
『さよなら、元気で』
冷たい瞳に私は何も言えなくなり、遠ざかる背中を立ち尽くして見つめていた。
彼が踏みつけていく桜の絨毯があまりにも綺麗で、今でも目に焼き付いて離れない。
「…なんで黙るの」
穏やかながらトーンの低い陽太の声で、現実に引き戻された。
顔を隠しているのは、動揺する私を見たくないからなのか。
それとも不安な自分を見せたくないからなのか。
どっちにしても、何かを怖がっているのが伝わる。
多分、陽太は気づいているのだ。
原因に『元彼』が関係していること。
付き合う前に、何年彼氏がいないの?と陽太に聞かれたことがある。
その時に丸2年と答えたけど、話したのはそれだけで、陽太はそれ以上何も聞いては来なかった。
その時の私は下手な作り笑いで、少しでも気を緩めたら涙が出そうになっていたと思う。
だから聞けなかったんだろう。



