熱い腕に抱かれ、頭を預けた汗ばんだ胸が早い呼吸で揺れている。

「…大丈夫か?有梨」

朦朧とした意識のまま顔を上げると、私を心配そうに見おろす陽太の姿が映る。

「ごめん、無理させた」
「ううん。大丈夫」

軽く微笑んで、もう一度その胸に頭を預けた。

今何時なんだろう。
以前なら、平日の夜に会うときはあまり身体を重ねることがなかった。
陽太のマンションへ行って、一緒に食事をして、他愛ない話をして、私のマンションまで送ってもらって帰る。
陽太は多忙だし、私が寝不足になるときついのを陽太はわかっているから、そういうスタンスが普通になっていた。
だけど、最近の陽太は会うたびに私を求める。
それだけ不安が消えないのかもしれない。

「ハンバーガー冷めちゃったな。ごめん。温めて食べる?」
「陽太、食べて。私もうちょっと横になってる」
「…ごめん。夕食食べるのが先だったよな」
「いいよ、大丈夫」

起き上がった陽太がシャツを羽織って立ち上がる。
ローテーブルの上には、倒れたファストフードの紙袋と、そこから転がり出たハンバーガーの包み。
きっと中に入ったままのフライドポテトも冷めてしんなりしているだろう。
陽太はテレビをつけ、クイズ番組を観ながら温めたハンバーガーを食べ始める。
BGM代わりとはいえ、陽太はクイズ番組の類は好きじゃないはずだ。
きっと私と同じで、沈黙が怖いのだと思う。
抱き合っているときは忘れていられるのに、無言だとなんとなく居心地が悪い空気になる。

もうすぐ5月が終わる。
よりを戻して3週間。
私たちの溝は、まだ埋まらない。