「はい。消毒」


ぺろっ


「きゃぅ…⁉」



夜野くんが、私の唇をペロリと舐めたのだ。



「な、今、なめ…!」

「うん。舐めた舐めた」

「(そんな軽々しく言わないでほしい…!)」



全く予想していなかった事態に、目にチカチカと星が瞬(またた)く。

だけど、また私が眩暈を起こしそうだと思ったのか。

夜野くんが私の手をひらりと攫った。



「ちょ、手!手が繋がってます…!」

「繋いでるんだよ」

「(なぜ…⁉)」



パニックになる私の前には、夜野くんと私の二人の影が伸びていた。

濃くハッキリと地面に写っていた影。


だけど、少しすると…。


地面に伸びていた影が、だんだんと色を失い、消えていく。

見上げると、厚くて黒い雲が太陽を覆い隠していた。

それを見て、さっきの会話を思い出す。



――ウソはダメだよ
――今日は曇りだ



「(夜野くんが”曇り”と言ったのは、このことだったのかな…)」



そんな事を思いながら、

二人とも黙って手を繋いだまま。


私たちは夜野くんの家に向かったのだった。