「(やっぱり夜野くんは怖い…!)」



夜野くんに更に恐怖していると、突然に彼が私に手を伸ばす。

「そう言えば」という言葉つきで。



「さっき倒れた時。どこも怪我しなかった?」

「……だ、大丈夫…です」

「そう。なら良かった。

あ、でも」



くいっと私の顎を攫い、そして自分の顔を近づけた夜野くんは。

ビー玉みたいに綺麗な薄茶色の瞳を、惜しみなく私に向けた。



「唇が切れてるね」

「あ、それは、さっき…」

「……」



さっき――と私が口走った時に、夜野くんがジッと私を見た。



「記憶喪失なんだよね?」

「そ、その通りです…!」

「うん。よろしい」



ニコリ


前髪が当たる距離まで近づき、夜野くんの綺麗な瞳が私を射抜く。

不覚にも、その瞳に吸い込まれてしまった私は、隙を見せてしまった。