「桃先輩は可愛い」【完】




1秒1秒がすごく長く感じる。



ーーーコンコン…


扉を叩く音。




「っ、」


どうしよう、誰か来た。




でも怖くて出れない。




外に出たらあのおじさんがいるかもしれないし。



「桃先輩っ。開けて」



聞き覚えのある声に、筋肉が緩むのがわかった。


冬野椿の声だ。



…本当に来てくれたんだ。



震える手を必死に抑えながら、トイレの鍵をゆっくり開ける。



ガラッーーー



「桃先輩っ、」



冬野椿の姿が見えた途端、力が抜ける。



私よりも辛そうな顔をしてる冬野椿に、胸が疼く。




走ってきてくれたのか、いつも整ってる髪型は崩れて、汗をかいていた。



「ご、ごめ、」



思うように言葉が出ない私の背中をゆっくりさすってくれる。




「大丈夫?何もされてない?」



その問いかけに言葉にならなくて、必死に首を縦に振って肯定する。




「桃先輩逃げよう。手ちゃんと握ってて。」



動けない私の手を冬野椿の大きな手がゆっくりと包み込んで、歩きだす。