冗談っぽく言ったつもりだった。
でも、くるみは焦ったように鞄を隠して…それだけでわかっちまうじゃねぇか…。
「…っ、」
胸が締め付けられるみたいに、苦しい――。
* * *
その夜、自室の前で何かを持ったまま立ち尽くす九竜を見かけた。
「おーい九竜、どうかしたのか?」
「和泉…なんか部屋の前にこれが置いてあって」
多分バレンタインのチョコだろう。
それも、贈り主は多分…。
「流石に寮の部屋の前まで持って来られると、ちょっと怖いなって…どうしようかと思ってた」
「…名前とかないのか?」
「ない」
「じゃあさ、俺にくれよ」
「え?」
九竜は怪訝そうに俺を見る。
「だってさー、お前大量にもらってんだろ?一個くらいくれよ!」
「いや、どれも受け取ってないけど」
「えっ?マジで?」
「こういうのは一人のしか受け取らないって決めてるから」
「…じゃあ、他の奴のは捨ててんのか?」
「いや?寮母さんにあげた」
「あっそう…」
「和泉が欲しいなら、これはあげるけど」
「おー、もらうわ」
なるべく平静を装って、受け取った。
ぶっちゃけムカつくとか、そういう感情は一切なかった。
多分九竜も同じなんだと思った。
好きな奴のチョコしか欲しくない。



