* * *
バレンタインデー当日。
九竜くんの下駄箱にも机の上にも、ぎっしりとチョコが詰め込まれている。
詰め込まれすぎて何個か床に落ちてる。
「相変わらずすげえな、九竜のやつ」
「わっ、橙矢!いきなり話しかけてこないでよ」
「なんだよ、別にいいだろ」
そんな橙矢をじっと見て、肩ポンした。
「どんまい!」
「何がだよ!!」
「チョコなんてなくても…なんとかなるよ!」
「…お前がすげえ腹立つこと考えてんのはわかった」
流石の橙矢も天下のモテ男の前では霞むよね…。
「言っとくけど、もらえなかったわけじゃねぇからな!俺は…」
「俺は?」
「…っ、なんでもない。それよりお前こそ、どーせ渡す相手なんていないだろ?
俺がもらってやってもいいけど?」
「…っ!」
思わずチョコレートを忍ばせたバッグを、背中に隠す。
「橙矢にあげるものなんてないからっ!」
「はあ!?」
「それに渡す相手くらい…」
「もしかして、誰かに渡すつもりなのか?」
「……」
「だっ、誰だよ!」
「うるさい!橙矢には関係ないもんっ!」
――橙矢のバカ!
ほっといてよ…っ!!
私はその場から逃げるように立ち去る。
私の背中を切なげに、苦々しく見つめる橙矢の呟きなんて、まるで届いていなかった。
「…関係なくなんかねーよ…」



