新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

運転しながら、高橋さんが涼しげな瞳で笑っている。
何で、こんなに優しい人を疑ったりしたんだろう? 高橋さんが、遊びでどうこうするような人じゃないことぐらい、冷静に考えれば分かることを……。
「洗って、お返ししますね」
「別に、構わない」
「あっ、でも……」
高橋さんは、ハンカチを私の手から奪うと、そのままポケットに入れてしまった。
洗って返したかったのに……。
暫く走っていると、高橋さんが路肩に車を停めてハザードを点滅させた。
どうしたんだろう?
すると、ポケットから携帯を取り出して電話に出た。
電話だったんだ。
「もしもし……ああ……そう。別にいいけど……構わない。2、30分ぐらいかな……分かった。それじゃ」
仕事かな? 何か、用事があったんじゃ?
「高橋さん。仕事か、何か用事があったんじゃないですか? あの、私でしたら……」
「用事? こんな腹減ってるのに、まだ俺に働けっていうのか?」
「あっ、いえ……」
「もう、エネルギーゼロに近い。警告灯点きっぱなし」
プッ!
高橋さんったら、本当にお腹空いてるんだ。
それから少しして、高橋さんは地下の駐車場に入って車を停めた。
此処って……。
「あの、此処って明良さんのマンションですよね?」
「よく覚えてるな」
助手席のドアを開けてくれた高橋さんは、私が降りると後部座席のドアを開けて、スーパーの買い物袋を2つ手に持った。
あっ。そうだ。すっかり忘れてた。さっき、買い物したんだった。
「冷蔵庫に入れるものがあったら、明良の家の冷蔵庫に入れておけばいい」
「あの、大丈夫です。それじゃ、明良さんに申し訳ないですから」
「遠慮しなくていいさ。あいつの家の冷蔵庫は、独り暮らしの癖に巨大だから」
「そうなんですか?」
エレベーターに乗りながら、力強く高橋さんが黙って頷いた。
11階で降りて、明良さんの部屋のインターフォンを鳴らすと、直ぐに明良さんが出て来てくれた。
「あれ? 陽子ちゃんも、一緒だったんだ。ヒャッホー! 陽子ちゃん。久しぶりだなあ。hug,hug……」
あ、明良さん。
いきなり、明良さんに大袈裟にhugをされた。
「明良。冷蔵庫借りるぞ」