新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

タクシーに一緒に乗った女性の名前は分かったけれど、何をしている人なのか。何のために、勤務時間中にわざわざ渋谷を案内しなければならなかったのか。それが何故、私でなければ駄目だったのか。何が何だか、さっぱり分からないまま……。
けれど、分かったことは、高橋さんとケイティさんはとても親しい感じだった。
視察に同行したのに、どういう関係なのかも分からない。高橋さんは、何も説明してくれないから、どうにも心が中途半端に苛立っている。
視察といっても、私は居なくても良かったじゃないかな。そう思えて何だか酷く疲れていたが、明日と明後日は何処にも出掛けたくなかったので、最寄り駅で降りてスーパーで買い物をして帰ることにした。
勢いで、缶ビールまで買ってしまい、両手に重たい袋を持って駅からゆっくり歩いてやっとのことでマンションに辿り着いた。
両手に重たい袋を持っていたので、入り口のドアを開けようとして左手に一旦、右手の袋も持ってドアを開けようとしたところ、後ろからドアを開けてくれる人が居た。
「すみません。ありがとうござ……」
お礼を言おうとして後ろを振り返ると、ドアが閉まらないように扉を持ってくれている高橋さんが立っていた。
「随分、買い込んだな」
何故、高橋さんが此処に?
「あの、ケイティさんのホテルに送って行かれたんじゃ……」
「ああ。送っていった」
「そ、そうですか。お疲れ様でした。あ、あの、重たいんで失礼します」
「待てよ」
うわっ。
高橋さんに腕を掴まれてしまい、オートロックを解除しようとして慌てて出した鍵を落としてしまった。
すると、落ちた鍵を高橋さんが拾ってくれると、その鍵を手に握らせてくれた。
「ありがとうございます。すみません、失礼します」
本来なら一緒に居たいはずの高橋さんと、今は一緒に居たくなかった。早く入りたい。
「話がある」
エッ……。
「あ、あの、すみません。仕事の話でしたら、月曜日にして頂けませんでしょうか?」
もう、昨日のような仕事の話だったら、今日はもう聞きたくなかった。