新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「あの、私……」
『どうかしたのか?』 と問い掛けた高橋さんの言葉が、無性に哀しかった。
「無理……です」
「何がだ? どこか、具合でも悪いのか?」
高橋さんが、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
やめて……近づかないで。もう、これ以上、哀しい思いをするのは嫌だ。
「そうじゃないです。私、あの方と一緒に視察になんて……」
「仕事だ」
エッ……。
ただひと言、高橋さんは冷たく言い放った。
「高橋さんは……」
「勤務時間中は、ビジネスに徹して欲しい」
高橋さん。
「行くぞ」
そう言って、高橋さんは踵を返すと部屋を出て行った。
『勤務時間中は、ビジネスに徹して欲しい』
確かに、勤務時間中だった。
さっき、一緒に食事をした秘書の人達も、ひとたび自分の仕事のこととなったら、行動も言動も表情すら変わっていた。見習わないといけないと、思ったばかりだったのに。駄目だな……。高橋さんの言うとおり、今は勤務時間中なんだ。余計なことは考えないようにしよう。仕事なんだから……。
そう、自分を振るい立たせて部屋を急いで出て、高橋さんの後を追った。
「此処が、渋谷なのね」
電車で移動したが、正確な時間で電車が来ること。昼間なのに、車内が混んでいること。次の電車が来る間隔が、とても早いこと。電車内が綺麗なことにケイティさんはとても驚いていた。
「ハチ公?」
「そうです。此処が有名なハチ公前という場所で、待ち合わせによく使われたりします」
「待ち合わせ? 此処で?」
「はい」
高橋さんがケイティさんに説明をしているのを傍で聞いていたが、ケイティさんには見るものすべてが新鮮で、斬新に感じられているようだった。