新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「あまり考えながら歩いてると、車にぶつかるよ? 車に闘い挑んでも、負けは見えてるからさ。気をつけないと」
ハッ!
「クスッ。柏木さんったら、いくらなんでもそれはしないですよ」
「それならいいけど。それじゃ、ちょっと俺、急いでるから。また」
「はい。お疲れ様でした」
「お疲れ」
柏木さんは手を振って、足早にちょうど信号が青になった横断歩道を渡っていってしまった。その後ろ姿を見送りながら、高橋さんが昨日、タクシーに乗り込む姿を思い出していた。
あの女性は、いったい誰なんだろう?
高橋さんは、『悪いが、今は話せない』 としか……。
翌日、高層ビルの中にある高級レストランに高橋さんと向かい、昨日帰りがけに高橋さんに言われていた昼食会に一緒に出席したが、聞いていたとおり、メインの昼食会に出席している人達の隣の部屋で取締役の秘書の人達と一緒にランチを食べていた。
ランチといっても、普段社食で食べている定食ランチとは比べものにならないぐらい、豪華なお弁当だった。
「ねえ、ちょっと聞いてもいいかしら?」
「は、はい」
秘書の1人の人から話しかけられ、慌ててお箸を置く。
「あら、いいのよ。食事しながらで構わないから、気にしないで」
「あっ、はい。ありがとうございます」
そう言われて、一応、お箸は持ってみたものの、何を聞かれるか分からなかったので身構えていた。
「貴女の上司、高橋さんでしょう?」
高橋さんの名前を出されて、一瞬、ドキッとした。
「は、はい。そうです」
「いいわねぇ。毎日、会えるわけでしょう? あんな素敵な人が、直ぐ傍に居たら会社に来るのも楽しくて仕方ないんじゃない?」
「あの……」
何て、応えればいいんだろう?
楽しい? 会社に来るのは、楽しいのかな? 確かに、前は高橋さんが席に居ないと寂しかったし、出張に行ってしまっていると会社に来ても詰まらなかった。だけど、今は……今は、どうなんだろう? 自分でも、よく分からない。
「立ち入ったことを聞くようだけれど、高橋さんって彼女いらっしゃる感じ?」
「あっ。私も、それ伺いたいわ。彼女らしき人から会社に電話があったって、前に噂で聞いたんだけど、本当のところは分からずじまいだったから」