新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

何か、一緒に帰るのは嫌だな。
IDをスリットさせてエレベーターホールに向かってボタンを押すと、直ぐにタイミング良くエレベーターの扉が開いた。
「タイミングいいな」
エレベーターに乗って2階まで向かう間、1度も途中の階にも停まらずにノンストップで着いたのも珍しかった。
「それじゃ、俺、鍵返しておきます」
「悪いな。頼む」
「はい。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「矢島さん。ちょっと、いいか?」
エッ……。
高橋さんから、鍵板を受け取った中原さんに続いてエレベーターを降りようとして、高橋さんに声を掛けられてしまった。
「それじゃ、お先です」
「お疲れ様」
「あっ。あの、私も降ります」
早口でそう言ってエレベーターを降りると、高橋さんもエレベーターを降りていた。
高橋さん……。
「時間は、取らせない」
高橋さん。
「実は、ちょっと頼まれてくれるか?」
エッ……。
「あの、私……ですか?」
そう言いながら、他のエレベーターから降りてくる人達を避けて高橋さんと端に寄った。
「明日なんだが、専務以上の役員と取引先との昼食会がある。それに、矢島さんも同席してくれるか?」
ハッ?
「あ、あの、何で私が……そんな上の方々の昼食会に……」
考えられない。何故、私が?
「昼食会は、そんな重要じゃない。矢島さんは、秘書の人達と一緒に控え室で食事を取って貰うことになると思うが、その後の視察が重要で、その視察に同行して欲しいんだ」
「視察……ですか?」
「ああ。午後いっぱい掛かってしまうかもしれないが、退社時間までには終わると思う」
午後いっぱい掛かるの? でも……。
「あの、通常の仕事は……」