新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

はあ……。
噂とはいえ、いくら何でも酷すぎる。おめでただなんて、何で高橋さんと私が……。
何処でどうしたら、そういう話になるんだろう? ドラマとかで見るような、産婦人科に入っていくところを目撃されて、そこから根も葉もない噂が立つ等、よくある話だけれど、産婦人科にも行っていないのに。何故?
そして、その日の夜、追い打ちを掛けるようにまゆみのメール内容を見て愕然とした。
— 同棲してるってことになってるよ —
もう行くところまで、行ってるって感じだ。
気にしなくていいからと、まゆみは言ってくれたけれど、そうは言ってもやはり気になって仕方がない。高橋さんにも迷惑が掛かってしまっているかもしれないと思うと、それだけで胸が痛かった。
夜中に何度も目が覚めてしまい、熟睡できないまま、今朝も重たい気持ちを引きずりながら電車に揺られている。
今、もし傍であること、ないことを囁かれながら背中を突かれたら、たとえそれが小指の先だったとしても、脆く崩れ落ちると思う。
けれど、会社を休まないのは、休んだら余計何かを言われるような気がして、休みたくても休めない。
何故、こんなことになっちゃったんだろう? 
今ある、全てのことがとても苦しい。
今日も高橋さんは既に席に座っていて、相変わらず高橋此処に居ますオーラが出ていた。
でも今の私には、そのオーラに浸る余裕もない。
「おはようございます」
「おはよう」
いつも通りの朝の挨拶を交わし、直ぐに書類の山に取り掛かる。
昨日の朝のような無駄な時間は、もう高橋さんに取らせてはいけないので、聞きたい気持ちを押し殺して仕事に没頭した。
取引先のお正月休みも終わって通常状態に戻ったこともあり、年明けの書類が一気にまわってきて、まだ12日だというのに書類と時間に追われ、あっという間に夕方になってしまっている。時間の経過が、本当に早い。
「この書類、後で纏めといてくれる?」
高橋さんが会議から戻ってきた際、私の席に来て書類を机の上に載せた。
「はい」
「それと、出張の仮払いもまた頼むな」