新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「これで、2度目なんだよね」
「そうなの?」
「うん。2度とも同じ女よ。あの雪の中、タクシーに乗って何処に行ったのかしらねぇ……。何処かで、暖まったのかしら?」
「肌と肌を寄せ合ってとか」
「嫌だわあ。朝から卑猥よ」
やめて……。
「だって、そうじゃない? 雪が降ってるのに、わざわざタクシーに乗って何処行くのよ?」
「そ、そっか。それも、そうだよね」
「何、くだらないこと言ってないで、朝礼、朝礼。おはよう。矢島ちゃん」
「おはようございます」
折原さんに、声を掛けられた。
「何、朝から浮かない顔してるの? 明るく、気合いで今日も1日頑張ろう」
「痛っ……」
折原さんに背中を叩かれた。
「あら、痛かった? ごめんねぇ。馬鹿力だから」
「あっ、いえ……」
「何も気にしない方がいいから」
エッ……。
折原さんが耳元でそう言うと、前の方に歩いて行ってしまった。
折原さん……折原さんに心配掛けちゃ駄目だな。気をつけなくちゃ。
気持ちを切り替えて月初の仕事に集中しながら、ふと顔を上げると高橋さんと目が合ったので、慌てて視線をまた書類に戻す。今朝から、この繰り返し。
別に悪いことをしているわけじゃないし、高橋さんを避けているわけでもない。だけど、やっぱり何となく昨日のことがあって、視線を合わせるのを潜在的に避けてしまっている。
月初にやらなければいけないパソコンのホルダーや、書類の表紙替え等を終わらせ、帰る準備をしていると、高橋さんと中原さんも帰る支度を始めていた。
「中原。そろそろ、あがれるか」
「はい。矢島さんも、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」