新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「これは……」
「目を瞑れ」
エッ……。
「いいから」
「は、はい」
高橋さんに言われて、静かに目を瞑った。
「口開けて」
「えっ?」
驚いて目を開けると、高橋さんの右手が私の両目を覆った。
「怖くないから、目を瞑って口開けて」
高橋さんの言われたとおり目を瞑って少しだけ口を開けると、一瞬、いい香りがして、口の中がほんのり甘くなっていくのが分かった。
何だろう?
「Violett」
エッ……。
すると、高橋さんが両目を覆っていた右手を離してくれたので、直ぐに目を開けると、高橋さんが微笑みながらほんのり甘いそれを、同じよう口に入れた。
「美味いだろう?」
「はい。ほんのり甘くて、何かとても優しい味です」
「ドイツ語で、Violett。ハンガリー語で、Ibolya。日本語でいうと、すみれだ」
「すみれ? すみれって、あのお花のすみれですか?」
「ああ、そうだ。昔、皇妃エリザベートが、どうしても毎日のように甘いものが食べたくて仕方がなかった。しかしエリザベートは、今でいうダイエットを欠かさずしていたので、カロリーの高いものはなるべく避けたかった。だが、甘い物は食べたい。そのジレンマから脱出出来たのが、ウィーンに今でもあるGerstnerという洋菓子のお店に置いてあるシシィファイルヘンという、すみれの花を乾燥させてそれに砂糖をまぶして作ったキャンディだったんだ」
すみれの花を乾燥させて、お砂糖をまぶしたキャンディ。