新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

その背中に向かって、小さい声で謝った。
高橋さんは、やっぱり私のことなんて何とも思ってないんだ。
『後で、彼氏にきちんと言った方がいい』
平然と言われて、引導を渡されたようで滅入りそう……。何で、滅入らなくちゃいけないの? 高橋さんは最初からその気はなくて、1人で勘違いしていただけなんだから。上司として、接してくれていただけなのに。
月末31日だったため締めの処理に追われて、結局、今日も残業していたが、昨日よりは早く終わりそうだった。
「お先に、失礼します」
「お疲れ様」
「矢島さん。もう終わるから、一緒にあがろうよ」
「えっ?」
「な、何? どうかしたの?」
「あっ。い、いえ、その……何でもないです。ちょっと、考え事していたものですから。」
中原さんの何気ない言葉に驚いた反応を示してしまい、慌てて取り繕った。
「お先に、失礼します」
そして、焦りながらバッグとコートを持って事務所を出て、IDカードをスリットさせてエレベーターに乗ると、やっとホッと出来た。
中原さんを待っていたら、きっと高橋さんも一緒に帰ることになってしま……。
「お疲れ様」
エレベーターのドアが開いて、誰かが途中の階から乗ってきたのは分かったが、声を掛けられて見ると、柏木さんだった。
「お疲れ様でした。先日は、ありがとうございました」
「先日? ああ、いやいや。その後、青木からしつこくされてない?」
エッ……。
昼間、階段であったことを思い出した。
「大丈夫?」
「あっ、はい」
「何かあったら、何時でも言って。俺、あいつには何でも言えるか……」
「おお。奇遇だなあ。帰りのエレベーターで、また会えるとは」
「また?」
青木さん……。
柏木さんがこちらを見たが、何となく気まずくて下を向いてしまった。
早く、2階に着かないかな。
エレベーターのドアが開いて、一斉にみんなが下り始めたので2階に着いたことが分かった。
1人でしゃべっている青木さんをよそに、無言のままエレベーターを下りて歩き出したが、警備本部に近づくにつれて、青木さんが盛んに話し掛けてきた。
「せっかく3人の顔が揃ったんだから、これから飲みに行かない?」
「飲みに?」
柏木さんも、少し驚いた声で青木さんに聞き返していた。
「うん。軽くね。どう? 矢島さんも、一緒に行こうよ」
「私は……」
「あっ。ちょっと、此処で決めようよ」
警備本部でバッグの中身を見せて、そのまま外に出ようとしたが、青木さんに腕を掴まれてしまった。
「まだ火曜日だし、矢島さんだって急に言われても都合があるんじゃないか?」
察してくれたのか、柏木さんが青木さんに言ってくれている。
「でも、昨日もキャンセルされたんだぜ?」
「昨日もって、お前」