新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「泣きたければ、思いっきり泣いていいんだからね。私のこの豊満な胸、いつでも貸すから」
そう言ってまゆみは、わざと胸を張って見せた。
「嫌だ。まゆみったら。もう、恥ずかしいから止めて。みんな見てるじゃない」
まゆみが、あまりにも胸を強調して見せたものだから、道行く人達が皆、見ている。
「あら、このまゆみ様の豊満な胸に悩殺されたか? コートの上からでいいんだったら、見たい奴には見せてやる」
「まゆみ!」
「はい、はい。仕方ない。周りの連中が鼻血噴くといけないから、止めるか」
そう言って、まゆみはわざとらしく反らせていた上半身をガクッと力を抜くようにして戻した。
もう……まゆみの物怖じしないというか、竹を割ったようなハッキリした性格が羨ましくもあるが、時々、驚いてしまうこともある。
でも、きっと私を励まそうとして……。
「あの女、誰なんだろう? 会社の女じゃないことだけは、分かる。ハイブリッジは、とんだ食わせ者か?」
まゆみ?
まゆみの独り言のように呟いた言葉に反応して、ギュッとまゆみの手を握り返すと、まゆみがその手を引っ張った。
「行こう」
「えっ? 何処に?」
「何処にって、帰るのよ。明日も仕事でしょう? 此処であれこれ考え巡らせていても、何も進展しないもん。ね?」
まゆみの肯定するようにと言うような催促の問い掛けに、黙って頷いた。
「私さ、結構、男見る目あるんだよ? でも、あのハイブリッジだけは、どうもその目が狂う時がある。だけど、根本は変わってない」
根本は、変わってない?
「あの、高橋貴博という男。いろんな意味で、あれだけ肝っ玉座ってるのは、かなり場数踏んできてるね。だから……」
言い掛けたまゆみは、そこで立ち止まると私の方を向いた。
「陽子の気持ちにも、もしかしたら気づいてるのかもしれない」
「まゆみ……」
高橋さんは、私の気持ちに気づいてるの?
気づかれているの?
「でもさ、ハイブリッジだけが男じゃないよ?」
「う、うん……」
「世の中には、星の数ほど男は居るんだから。要は、どこで妥協するかってことなんだけどね」
妥協?
「付き合った年月云々じゃなくて、もう、この人でいいやって思って付き合うか。それとも、この人でいいんだろうかと疑問に思って次に行く。恋愛って、難しいよね。その時のタイミングや環境とか、気持ちの持ちようによってかなり左右されるし」
「そうだね」