新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「本当に、寒いね」
まゆみにそう言うと、まゆみは寒さで手袋をした両手を口のところに当てながら力強く頷いた。
「これから、もっと寒くな……」
まゆみ?
話の途中でまゆみが一点を見つめて立ち止まったので、何事かと思ってその視線の先にゆっくりと顔を向けると、まゆみと同じように立ち止まって両手を口のところに当ててしまい、声には出なかったが自然に唇が高橋さんと動いていた。
「あの女、誰?」
エッ……。
まさかこんなところで高橋さんを見掛けるなんて思っていなかったので、高橋さんにしか目がいっていなかったが、交差点で信号待ちをしている高橋さんの隣に寄り添うようにして女性が立っていて、高橋さんと談笑していた。
「陽子。知ってる?」
まゆみの問い掛けに黙って首を振ると、まゆみは私の腕を掴んで歩き出した。
「ちょ、ちょっと、まゆみ?」
「もう少し、近づいてみよう」
「えっ? やめて。そういうの、良くないって」
「何、言ってるのよ。あの男、陽子の誘いを断って何やってるのよ。確かめてやる」
「いいの。まゆみ」
「良くないって。ちゃんと、確かめた方がいいって」
「もう、いいの。本当に、もう……」
「陽子……」
こんなに近くに居るのに、高橋さんが遠くに行ってしまった気がした。
高橋さんは、女性が何か話し掛けると微笑みながら応えていたが、左手を挙げてタクシーを停めると、エスコートするように先に女性を乗せてから高橋さんもタクシーに乗った。
「何処に行くんだろう?」
隣でまゆみが呟くようにそう言うと、手袋をしたままだったが、口に両手を当てたままだった私の左手を掴んで下ろすと、その手をギュッと握ってくれていた。
高橋さん。今日は無理と言ったのは、こういうことだったんだ。
『今日は、無理だ。悪いな』
高橋さんが、私に即答したわけが分かってしまった。だけど……。
「陽子。大丈夫?」
知りたくなかったけど、複雑な気持ちだけれど分かって良かった。
「うん。大丈夫だよ。ありがとう、まゆみ」
「私の前では、無理しなくていいんだよ?」
まゆみ……。