新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

やっぱり、大人しく寝ていれば良かった。
「もう、謝らなくていい。済んだことを言っても、仕方ない。だが、これからはちゃんと休める時は、無理はしないで休め。いいな?」
「はい」
晩ご飯の支度をして良かったのかどうかは、正直よく分からなかった。高橋さんに言われたとおり、大人しく寝ていた方が良かったんだと思うけれど、でも……こうして高橋さんと一緒に私の部屋でご飯が食べられた嬉しさで自分の喜びが勝ってしまっている。
「お前の体調が良くならないと、落ち着いて出張にも行かれないだろう?」
高橋さん……。
それって、やっぱり仕事のことが気になるから?
高橋さんが出張中、私がもし休んでしまったりしたら、中原さん1人では大変だから?
やっぱり、高橋さんは上司として……。
「ご馳走様」
「いえ、お粗末様でした。あっ。食器なら、私が……」
高橋さんが、食べ終わった私の食器も一緒に持って立ち上がったので、慌てて立ち上がった。
「いいから、お前は座ってろ」
「でも……」
「いいから」
高橋さんは私を制止して食器を持って行き、シンクに置くと食器を洗い出した。
「あの、高橋さん。洗い物なら、私が後でや……」
「大丈夫だ」
高橋さん。
その背中を見ながら、複雑な思いが交錯して哀しみが込み上げてきていた。
高橋さんは上司として、部下の私を心配してくれている。けれど、私は……。
「洗ったけど、乾いたらしまってくれるか?」
それなのに、洗い物までさせてしまった。
「どうかしたか? 食べて、気分でも悪くなったか?」
「ごめんなさい」
「何がだ?」
高橋さんはハンカチで手を拭くと、捲っていたワイシャツの袖を下ろしながらこちらを見た。
「私……迷惑ばかり掛けてしまって……」
「何のことだ?」
「迷惑ばかり掛ける部下で……上司だから……高橋さんは、上司として私にこうして優しく接して下さっているんですよね。本当に、ご迷惑ばかりお掛けして、申し訳ありません」