新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

もしかして、高橋さん。ご飯食べてこないかもしれないとしたら、家に来た時、お腹空いてるんじゃ……。高橋さんは、家に帰ってから晩ご飯食べるのかな? でも、それだとお腹空いちゃうだろうし、何か家で食べてもらった方がいいかな? だとしたら、晩ご飯の支度しなくちゃ。
だけど……。
具合が悪くて早退してきたんだから、晩ご飯の支度なんてしていたら、高橋さんに怒られちゃうかな?
『俺が行くまではゆっくり寝てろ』 
高橋さんに言われたことを思い出して一旦は留まったが、やっぱり椅子から立ち上がってキッチンへと向かった。
冷蔵庫の扉を開けたけれど、何を作ったらいいのか悩んでしまい思案に倦ねていたが、ふと週末にスーパーで買ったキャベツに目がいき閃いた。
そうだ。自分の晩ご飯だって作らなければいけないのだから、ちょうど冷凍になっている挽肉もあるし、ロールキャベツにしよう。これなら少し多めに作っておいて、温め直せば高橋さんもお腹が空いていたら食べられる。
タマネギと冷蔵庫の奥の方に辛うじて1本あった人参を取り出して、ロールキャベツを作り終え、ホッとしてソファーに座っていると、流石に疲れたのか知らぬ間に寝てしまっていて、ポケットで携帯が振動していることに気づいて慌てて起きて電話に出た。
「も、もしもし」
「高橋です。今、終わったが、具合はどうだ?」
高橋さんの声に一気に目が覚めて、電話に出ながら本当に高橋さんがこれから家に来るんだと思っただけで、すでに緊張して携帯を持つ手が震えているのが分かる。
「あ、あの、お疲れ様です。具合は、その……もう大丈夫です」
「そうか。それじゃ、今から出るから。後で」
エッ……。
「あ、あの、もしもし?」
高橋さんは、用件だけ言うと電話を切ってしまった。
本当は、晩ご飯はどうするのか等、いろいろ聞きたかったが、それは敵わなかった。
でも、高橋さんが来てから聞けばいいのだから、まあいいか。
高橋さんに、これから来ると言われて、ドキドキしながらも少し嬉しくて顔がにやけてしまっている。そして、さっきから5分おきぐらいに時計を見てしまい、落ち着かない自分が居た。何だか、時計が止まってしまったんじゃないかと思ってしまうぐらい、時間が経つのが遅く、携帯の時間と置き時計の時間を見比べたりして、意味もなく部屋の中をウロウロしながら溜息ばかり突いていた。