新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「あの……」
「乗って」
扉が開いたエレベーターに私に乗るよう促すと、高橋さんは2階のボタンを押した。
「高橋さん。何処に行くんですか?」
2階に着いたことを告げるアナウンスが聞こえ、エレベーターのドアが開いてしまい、訳が分からないまま2階で降りると、いつも通る警備本部の方には向かわずに正面玄関の方に向かうロビーを歩いている。
「高橋さん。何処に行くんですか? 教えて下さい」
「もう直ぐだ」
あまり気分も良くなかったので、高橋さんに問い掛けてみたが、ハッキリ応えてくれない。
しかも、正面玄関にはいつも受付嬢が2人座っているので、その2人も何事かとこちらを見ているのが分かる。嫌だな。また、何か変に思われたら……。
高橋さんに誘(いざな)われるようにそのまま正面玄関を出ると、目の前の車寄せに1台の黒塗りのハイヤーが停まっていて、運転手の人が高橋さんの姿を見て降りてきた。
「ちょっと、乗って待っていてもらえますか?」
「かしこまりました」
高橋さんにそう言われた運転手の人は、また運転席に戻ってドアを閉めると、それを確認した高橋さんが私に向き直った。
「今日は、もうこのまま家に帰れ」
「えっ?」
高橋さん?
「その方がいい」
「でも、もう本当に大丈夫です。さっきよりも、だいぶ良くなりましたから」
このまま帰ってしまったら……。
何だか、逃げているだけのような気がする。
きっと、黒沢さん達からも逃げるようにして帰ったと思われてしまうかもしれない。
「無理は、しないほうがいい」
逃げていても、何も解決しない。高橋さんとのことも……。
高橋さんとは、上司と部下の関係。高橋さんは、私の上司だということを自覚しなきゃ。それ以上のものは、この先も……ないのだから。
「本当に、大丈……」
「このまま居てもらっても、気になって落ち着いて仕事が出来ないから」
そんな……。
「仕事が終わったら、遅くなっても家に行く」
エッ……。
「話があると言ったままになっていたし、俺に文句があるなら、その時に何でも聞く」
「高橋さん。でも……」
「でもじゃない。そのかわり、俺が行くまではゆっくり寝てろ。それと、具合が悪いといけないから、近くまで行ったら電話する」