黒沢さんは、言い澱んでしまった。
「言いたいことがあるのでしたら、何なりと。お聞きします」
高橋さんは穏やかに話しているけれど、取り入る隙など見当たらないぐらい、全神経を黒沢さんに集中させているような後ろ姿に見えた。
「い、いえ……」
「では、よろしくお願いします」
高橋さんが戻ってくる姿が見えたので、慌てて下を向くと、ひそひそと黒沢さんに話し掛けている取り巻きの声が聞こえた。
「黒沢さん。大丈夫?」
「……」
「確か、誰かさんの親父さんは、社内パワハラ、セクハラ、虐め対策委員会の親玉だったわよねえ……」
エッ……。
その声に顔を上げると、通路から上半身だけ黒沢さんの席の方に傾けている折原さんの姿が見えた。
折原さん。
「何が言いたいのよ?」
「別に? ただ、親父さんも大変だなあと思ってね。いろんな調査をしなきゃいけないだろうけど、まさか身内がねえ……」
「ちょっと!」
「あら? 余計な詮索だったかしら? お時間無駄にして、ごーめんなさーい」
折原さんは、そう言い残して席に戻っていった。
きっと、折原さんも心配して言ってくれたんだ。私のために、申し訳ないな。
正直、何だか複雑な気持ちだった。
高橋さんが、黒沢さん達の前で言ってくれたことは嬉しかったけれど、それはあくまで上司としての行動。忙しい高橋さんなのに、私のためにあそこまで言ってくれて……。
私事なのに、自分1人で解決出来なくて情けないな。でも、情けないけれど言ってくれて嬉しかった。この矛盾だらけの複雑な気持ちに、自分でも戸惑う。だけど、それは上司だから。あくまで、上司として……。目を閉じて大きく深呼吸しながら、自分に言い聞かせた。
席に戻った高橋さんに、お礼を言うべきか、否か、迷っていたが、やはり言った方がいいと思って席を立とうしたが、高橋さんが受話器を取って何処かに電話をしようとしていたので留まった。高橋さんは、少し受話器を持ったまま何か考えている様子だったが、直ぐに何処かに電話を掛けていた。
「経理の高橋ですが……はい。正面玄関まで、お願いします。はい。今、直ぐお願いします」
「矢島さん。コートとバッグ持って、一緒に来てくれ」
エッ……。
「中原。直ぐ戻る」
「はい」
「行こう」
「えっ? あ、あの、ちょ、ちょっと、待って下さい。高橋さん」
高橋さんは、無理矢理机の脇に置いてあったバッグを私に渡して、後ろに掛けてあったコートを持つと事務所を出た。
「言いたいことがあるのでしたら、何なりと。お聞きします」
高橋さんは穏やかに話しているけれど、取り入る隙など見当たらないぐらい、全神経を黒沢さんに集中させているような後ろ姿に見えた。
「い、いえ……」
「では、よろしくお願いします」
高橋さんが戻ってくる姿が見えたので、慌てて下を向くと、ひそひそと黒沢さんに話し掛けている取り巻きの声が聞こえた。
「黒沢さん。大丈夫?」
「……」
「確か、誰かさんの親父さんは、社内パワハラ、セクハラ、虐め対策委員会の親玉だったわよねえ……」
エッ……。
その声に顔を上げると、通路から上半身だけ黒沢さんの席の方に傾けている折原さんの姿が見えた。
折原さん。
「何が言いたいのよ?」
「別に? ただ、親父さんも大変だなあと思ってね。いろんな調査をしなきゃいけないだろうけど、まさか身内がねえ……」
「ちょっと!」
「あら? 余計な詮索だったかしら? お時間無駄にして、ごーめんなさーい」
折原さんは、そう言い残して席に戻っていった。
きっと、折原さんも心配して言ってくれたんだ。私のために、申し訳ないな。
正直、何だか複雑な気持ちだった。
高橋さんが、黒沢さん達の前で言ってくれたことは嬉しかったけれど、それはあくまで上司としての行動。忙しい高橋さんなのに、私のためにあそこまで言ってくれて……。
私事なのに、自分1人で解決出来なくて情けないな。でも、情けないけれど言ってくれて嬉しかった。この矛盾だらけの複雑な気持ちに、自分でも戸惑う。だけど、それは上司だから。あくまで、上司として……。目を閉じて大きく深呼吸しながら、自分に言い聞かせた。
席に戻った高橋さんに、お礼を言うべきか、否か、迷っていたが、やはり言った方がいいと思って席を立とうしたが、高橋さんが受話器を取って何処かに電話をしようとしていたので留まった。高橋さんは、少し受話器を持ったまま何か考えている様子だったが、直ぐに何処かに電話を掛けていた。
「経理の高橋ですが……はい。正面玄関まで、お願いします。はい。今、直ぐお願いします」
「矢島さん。コートとバッグ持って、一緒に来てくれ」
エッ……。
「中原。直ぐ戻る」
「はい」
「行こう」
「えっ? あ、あの、ちょ、ちょっと、待って下さい。高橋さん」
高橋さんは、無理矢理机の脇に置いてあったバッグを私に渡して、後ろに掛けてあったコートを持つと事務所を出た。

