新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

タイミングが悪過ぎて、勘違いされてしまったみたいだ。
「嫌よねえ。不潔だわ。そんな人が身近に、しかも同じ部内に居るなんて」
「本当よね。さっきのは、絶対つわりよ」
「うん、うん。そうよ、きっと。未婚の母にでも、なるつもりかしら?」
もう嫌だ。聞きたくないな。 
何で、こうなるんだろう?
耳を塞ぎたかった。でも、三猿を実行しないといけないと思い、書類を見るふりをしながら下を向いた。
高橋さんと約束した、三猿。でも、三猿を実行しても、もう限界……。
「妊娠してまで、妻の座を勝ち取りたかったのかしら?」
「もしかして、計画的なんじゃないの?」
そんな……。
ガチャッと椅子を引く音がして、高橋さんが席を立って何処かに行ったようだった。
高橋さんだって、きっとこんな話は聞きたくないはず。
「誰ですかね? 具合の悪い私の部下を動揺させるような、思いやりの欠片もない無責任なことを言っているのは?」
その声に驚いて顔を上げると、高橋さんが黒沢さんの席の横に立って、椅子の真横に置いてあるゴミ箱に右足を掛け、その右足の上に右肘を突いて顎に手を置きながら黒沢さんを睨んでいた。
高橋さん……。
「あら、高橋さん。お言葉ですが、誰も無責任なこと等、言っておりません」
「そうですか。では、今の発言は、私に対するものでしょうか?」
高橋さんに?
「と、とんでもない。高橋さんには、そんなこと……」
「将を射んと欲すれば、先ず馬を射よ。黒沢さん。今、貴女がやっていることは、私の足をすくおうとするための手段としか、私にはとれない」
そう言うと、高橋さんはスッと左足でゴミ箱を横にスライドさせて黒沢さんに一歩近づいくと、腕を組みながら黒沢さんを見下ろした。
「そ、そんな……」
「もし、本丸が私ならば、どうぞ遠慮なくストレートに来られて構いませんよ? 私は、逃げも隠れもしません」
「……」
「ですが……」
そう言い掛けた高橋さんの声のトーンが、少し低くなった気がした。
「私の部下に対し、これ以上、余計な詮索や中傷は止めて頂きたい」
高橋さん……。
「黒沢さん。何度も同じことの繰り返しでは時間の無駄ですから、もう一度、言います。私の部下に対し、これ以上、余計な詮索や中傷は止めて頂きたい」
「でも、根拠が……」
「根拠があろうが、仕事に他人の余計な詮索は無用です。特に、噂話等」
「なん……」