新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

あっ……。
もしかして、高橋さんは私を庇って……。
私が、今回の件で異動させられることがないように? その時は、高橋さん自身が異動するか、若しくは辞めるとまで言ってくれたの?
隣に座っている高橋さんをジッと見ていると、社長の大きな溜息と共に革張りのソファーが軋む音が聞こえた。
「その時は、飛ばすのでしたら私を。矢島さんは、そのまま経理に。と言うことで……」
「高橋さん!」
社長に念を押している高橋さんに、思わず黙っていられなくなって言葉を挟もうとしたが、高橋さんの左手がそれを制した。
「大丈夫だ。そんなことは、考えていない。もしも、そのようなことを人事部長が言ってきたとしても、取るに足らないことだ」
「ありがとうございます。それを伺って、安心致しました」
良かった。
社長の言葉を聞いて、ホッとしていた。
でも、いったい社長も高橋さんも、どこまでお互いの胸の内を見抜いているのだろうか? さっぱり分からない。
すると、社長が立ち上がった。
続いて、高橋さんも立ち上がったので私もそれに習った。
「忙しいところ、余計な時間を取らせて悪かったね」
社長は、そう言いながら高橋さんと私を見た。
「こちらこそ、ご心配をお掛け致しました。では、失礼致します」
「じゃ、そういうことで」
高橋さんは、背中を向けながら手を挙げた社長に向かって黙礼していたので、慌ててお辞儀をした。
大人の会話……。
高橋さんが、部屋から出ようとドアを開けた。
そして、社長は社長が座っていた後ろの自分の奥の部屋のドアの方へと向かう。
「ああ、矢島さん」
エッ……。
「は、はい」

社長に呼び止められて驚いて振り返ると、奥の部屋のドアを少し開けて、ドアノブを持ったまま社長がこちらを向いていた。
な、何?
高橋さんは、先に歩いて部屋を出て行ってしまっている。
どうしよう……。
「ハッハッハ……。そんなに慌てなくて大丈夫だ。心配しなくてもいい。高橋君は、ちゃんと待っていてくれるだろうから」
「えっ? あっ、は、はい。申し訳ありません」
咄嗟に高橋さんが出て行ったドアの方を振り返って、また社長の方に向き直った私の忙しい動作を見ていた社長に、笑いながら言われてしまった。
「君は、良い上司に巡り会えて幸せだぞ」
「はい。ありがとうございます」
高橋さんは、本当に良い上司だと私自身、いつも思っているから直ぐに返事が出来た。
「それに、君も高橋君もまだまだ若い。大いに、恋愛を謳歌しなさい」