新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

社会人としての自覚もないまま、この会社に入って3年。経理で出逢った高橋さんに、社会人とは何か? 仕事とは、いったい何なのか? を、一から教えてもらっているうちに、上司として、また1人の男性として、そんな高橋さんに恋をして……。それなのに、本配属では経理から人事に。あの時のことを思い出しただけで、今も胸がキュッと締め付けられる。高橋さんと離ればなれになってしまうと悲観していたのも束の間、高橋さんはニューヨークに行ってしまって……。
高橋さんが経理に戻ってきて間もなく、人事から経理に異動して、思いがけずまた高橋さんの部下になれたあの日が、ついこの間のようだ。せっかく高橋さんの部下としてまた働けるようになったのに、それなのに……何もかもが、中途半端な感じで終わってしまう感じ。
でも、仕方がない。自分で蒔いた種だもの。そう言い聞かせるようにして、バッグを持ってトイレを出ると、警備本部に向かう途中、前から高橋さんが歩いて来るのが見えた。
きっと、経理の部屋の鍵を返して駐車場に向かうんだろう。会いたくなかったのに……こんな時に限ってタイミングが悪過ぎる。
もう直ぐ、高橋さんと擦れ違う。顔をまともに見られず俯き加減で歩きながら、挨拶をするべきか、否か、迷っていた。俯いていたから、高橋さんの綺麗に磨かれたノルウィージャンのコニャックの革靴のつま先が見えて、慌てて顔を上げて軽く会釈をして擦れ違った。
「それでいいのかよ……」
すれ違いざま、そんな声が聞こえた。
エッ……?
思わず振り返ると、高橋さんはそのまま背中を向けてエレベーターの方に向かって歩いていた。その後ろ姿から目を離せずに居ると、エレベーターの少し手前で高橋さんが背中を向けたまま立ち止まった。
「お前は……お前は、本当にそれでいいのか?」
高橋さん。