新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

そんな高橋さんと中原さんの会話を聞きながらコピー機のところに向かうと、すでに周りの席の人達は全員退社して電気も消えている。黒沢さんも、帰った後だった。
「すみません。お待たせしました」
コピーを終えて戻ってくると、中原さんの姿はなかった。
トイレにでも、行っているのかな。
「これは、明日の朝まで預かっておくから」
「はい。よろしくお願いします」
高橋さんは、部長の原本と打ち出した書類を机の引き出しにしまうと、後ろに掛けてあったジャケットを羽織った。
「さて、帰るか」
「あの……中原さんは?」
「ああ。中原なら、一足先に帰ったよ」
「えっ? お礼言えなかった……」
ちゃんと、お礼を言いたかったのに。
「彼女の誕生日らしいから」
エッ……。
「そんな……」
そんな大事な日だったのに、それなのに私のせいでこんなに遅くなってしまって……どうしよう。中原さんに、悪いことをしてしまった。
「どうしよう。そんな大事な日に、私のせいで……」
『役立たずのくせに、面倒なことばかり起こして他人に迷惑掛けて。よく、平気で会社に居られるわよね』
黒沢さんの言葉が蘇って、頭の中で何度も言われ続けている。
「仕事なんだから、それぐらい中原だって分かっているはずだ」
「でも、仕事といっても私のミスじゃないですか。それを高橋さんや中原さんにまで、ご迷惑をお掛けして。まして中原さんには、そんな大事な予定もあったのに。それなのに……。何をやっても、私……やっぱり駄目で……」
夕方から泣きたい気持ちでいっぱいだったが、とにかく書類を明日の会議に間に合わせることが先決と思って堪えていたけれど、中原さんの彼女の誕生日だと知って、それをきっかけに堪えていたものが込み上げてきてしまった。