新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「中原。ちょっと、いいか?」
書類を抱えて、急いでコピー機の方に歩いていく途中、後ろから高橋さんのそんな声が聞こえた。
コピーを終えて戻って高橋さんに原本とコピーした書類を渡すと、高橋さんが素早くコピーしたものを振り分け始めた。
「中原。お前、此処まで頼む」
「はい」
エッ……。
「それで、矢島さんは……此処まで」
「はい。あの……」
「3人で手分けしてやれば、早く終わる」
高橋さん……。
「でも、それでは他の仕事が……まだ終わっていないんじゃ……」
「もう電話もこの時間じゃ、殆ど掛かって来ない。差し当たって、こっちが最優先だろう?」
見ると、時計の針は退社時間の17時をとっくに過ぎていた。
「でも、私がやってしまったことなのに、高橋さんや中原さんにまで……」
「大丈夫。困った時は、お互い様だよ。その代わり、俺が今度困った時は頼むから」
「中原さん……」
「そういうことで、2人共よろしく」
高橋さんと中原さんに、とんだ迷惑を掛けてしまって……。それなのに、本当に良い人達だ。私の不注意で消してしまった原稿なのに、何も言わずに打ち直しを手伝ってくれている。それに比べて、私は足を引っ張るばかり。黒沢さんに言われたことも身に滲みているし、当たっているだけに苦しい。この仕事、やっぱり向いていないのかな? 原稿を打ちながら、ふと頭をそんな思いが過ぎったせいか、先ほどから時間が経つにつれて仕事を辞めたいと思う気持ちに心が傾いていた。
手分けして打ってもらえたお陰で、21時過ぎには読み合わせも終了して、何とか明日の会議に間に合わせることが出来た。
「OK! それじゃ、念のためにもう1部コピーしてきてくれるか?」
「はい」
「中原。悪かったな」
「いえ、そんなことないです。電話も掛かってこないし、久しぶりに没頭してキーパンチャーになった気分でした」
「ハハハッ……」