新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

このチャンスを逃せないと思い、そっと布団を捲って起きあがってベッドから立ち上がろうとした時、いきなり寝ている高橋さんに左腕を掴まれた。
うわっ。
「何処に行く?」
驚いて声も出せずに振り返ると、暗闇の中で高橋さんの鋭い視線が私を捉えていた。
「あ、あのトイレに……」
「寒いから、上に何か着ていけよ」
そう言いながら、高橋さんは腕を掴んでいた手を離してくれた。
「あっ、はい」
パーカーの上から、更に明日着る予定だったカーディガンを羽織って2階のトイレに行って、また1階の部屋に戻ろうと階段を降りていると、ふと階段の踊り場の横にあるベランダに通じているガラスサッシの窓越しに、仁さんがベランダに立っている後ろ姿が見えた。
仁さん。何をしているんだろう?
少し迷ったけれど、気になったのでサッシ窓を開けて外に出ると、サッシの開く音に気づいて仁さんが振り返った。
「どうしたの? ごめんね。さっきまで煩くしていたから、眠れなかった?」
仁さんが、優しい言葉を掛けてくれる。
「いえ……トイレに来たら仁さんが姿が見えたので、それで……」
「そう」
「此処で、何してるんですか?」
仁さんに、素朴な疑問をぶつけてみた。
「ああ。寝ようと思ってトイレ入って、トイレの窓から外を見たら凄く星が綺麗だったから、ちょっと気になってベランダに出てみたんだ。もしかして、こういうバックもライブのステージとかで使ったら映えるかなと思って、何となく見てたんだよね」
「そうだったんですか」
何か、凄いな。こういう時でも、仕事のことを考えているんだ。でも、そうでないと代理店とかではやっていけないのかもしれない。
それにしても、無数の星が綺麗。高橋さんと行った、アドベンチャーワールドを思い出す。でも、その高橋さんの心の中には、まだ……。
「どうかしたの?」
うわっ。
視線を外して空を見上げていると、仁さんに上から顔を覗き込まれた。
「い、いえ。凄く、星が綺麗だなと思って」
「そうだね。冬だから、空気も澄んでいるから尚更だよ」
「はい」
仁さんは、高橋さんとミサさんのことを知っていた。高橋さんとミサさんが、付き合っていた頃もきっと……。
「貴博って、分かりづらいんじゃない?」
エッ……。
「仁さん……」