新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「お待たせしました」
次の人にそう告げて、急いでコピーしたものをすべて抱え込んでコピー機から離れると、まゆみの隣に立った。
「流石、土屋の局。察しが早いな」
そう、まゆみが小声で私に耳打ちすると、直ぐにまた2人に向き直った。
「年齢、性別、勤続年数なんていうのは、この際関係ない。秩序乱したる者、愚か者なり」
「な、何ですって? いい加減にしなさいよ」
黒沢さんが声を荒げたので、周りから一斉に視線が集中した。
「ちょっと、貴女……」
「いいのかしら? 私の席の斜め後ろが専務室なのよ。専務にお嬢さんが社員を苛めてましたよ? なぁんて後ろを通られた時に、呟いてみたりしてぇ? 最近、企業内でのパワハラや苛めが問題になってますもんねぇ。黒沢さん?」
凄い剣幕で言い掛けた黒沢さんの声を制止するように、まゆみは静かに、そして不敵な笑みを浮かべながら黒沢さんにそう告げた。
「い、行きましょう」
「え、ええ」
黒沢さんは、まるで逃げるようにして慌てて土屋さんと一緒に行ってしまった。
「フフフッ……。肝っ玉、小さいねぇ」
「まゆみ……」
「そんな情けない顔して、どうしたのよ」
「だって、あんなこと言っちゃったら……」
「私ね、許せないんだわ。理由はどうあれ、喧嘩するなら真っ向勝負でなくちゃ、卑怯じゃない。勿論、暴力は論外。言いたいことがあるなら、面と向かって相手に1人で言いに行けってこと。1人じゃ何も出来ないくせに、多勢になれば気が大きくなる。群集心理的な行動は、絶対許せないんだよ」
まゆみ……。
「陽子。気にしなくていいよ。私は、たとえお局軍団で来たとしても、1人で太刀打ち出来るから。此処が、違うからね」
そう言うと、まゆみは人差し指で頭を叩いて見せた。
「おっと、こんなことしちゃいられなかったんだ。経理部長の所に、用があったんだ。そうそう、陽子のとこの上司の……あっ。これだ。出張仮払いの捺印書類出来てたから、ついでに持ってきた」
「ありがとう。助かる」
「それじゃ、またね」
「うん。ありがとう」
まゆみは、早足で経理部長席の方へと向かっていった。
その後ろ姿を見て、あんな勇気が私にもあったらいいのにと思いながら、急いで席に戻ってレジメをセッティングして、再度ページが抜けていないかどうか等を確認したりしていると、会議に行く時間になっていた。
「矢島さん。そろそろ行こうか」
「はい」
「じゃ、中原。あと、頼むな」
「はい。行ってらっしゃい」
「よろしくお願いします」
高橋さんと会議室に向かうと、取締役をはじめとして、社長、副社長も出席されるようで、席の前に名札が置かれていた。
その場所にレジメを置いていきながら専務の席でレジメを置く時に、その名前を見て少し躊躇してしまった。
黒沢専務が、黒沢さんのお父さん……。